1922(大正11)年から続くひょうたん温泉(大分県別府市)の4代目、河野純一社長は悩みがあった。源泉温度が101度ではあまりに熱すぎる。頑固な先代は「水なんか入れたら温泉でない」と加水を認めなかった。朝8時開始にあわせ午後10時から少しずつ浴槽にためて、自然に冷ます。午後9時に閉めるので深夜営業できない。
「営業中もちょろちょろしか湯を足せないので、これでは源泉懸け流しではないというお客さんの不満もありました」。毎分700リットルもわき出す湯はほとんど活用できずに捨てていた。
水を加えずに温度を下げられないものか。01年ごろ、県産業科学技術センター主任研究員の斉藤雅樹さんに相談。「冷却装置を使えばいい」と助言された。水と空気の接触で建物などを冷却する熱交換器はどうか。
だが、河野さんはビルの屋上にあるような機械的なイメージは温泉にそぐわないと感じた。どんな素材がいいのか。2人で、セラミックス、銅、鉄などの小片を温泉の湯につける実験をした。この温泉は酸性度が高く、金属片は溶けた。セラミックスは温泉の成分で汚れた。
「一番変化しないのは試験片をはってあった木でした」。考えてみれば、温泉の建物には昔から木が使われている。
木といえば大分の名産は竹。04年、県竹工芸・訓練支援センターの豊田修身主幹研究員(当時)らが加わった。豊田さんが持ってきた色々な竹製品の写真で、塩田に使われていた枝条架(じじょうか)というものが斉藤さんらの目に留まった。
竹ぼうきに使われるような竹の枝を1列に並べてつるし、数段重ねたものだ。上から海水を流すと濃縮される。同じように湯を流せば、細かい水滴になり、表面から水分が蒸発し気化熱を奪われ、冷えるはずだ。
メンバーは兵庫県赤穂市にある復元された枝条架を見学し、参考試作した。湯が樋(とい)から線になってあふれ、竹皮に伝わって、下にたまる仕組みだ。小型のもので試行錯誤し、まず高さ約1メートル、竹枝2段の中型実験機をつくった。じょうろで80度の湯をかけると水になった。
05年2月、高さ3メートル、幅3.6メートルの実証機が完成。ポンプで100度の湯を流すと数秒で水になった。だが雪の日で気温は0度近く。装置の効果が分からない。周りを温室にし、室温50度、湿度90%にして実験。96~98度の湯が47、48度まで下がることを確認した。
「湯雨竹(ゆめたけ)」と名づけられた装置で午前1時まで営業すると売上は3割増。水を混ぜていた市の共同浴場も小型機を入れ、2ヶ月で12万だった水道料金が約6万4千円に減った。
ひとこと
電源いらずの湯雨竹は技あり史上一のローテク。江戸時代でも作れそうな装置でなぜこれほどさめるのか。工学部出身ですが、いまだに信じられません。(鍛冶信太郎)
足湯用の中型機
湯雨竹の上部。からしたたる湯が竹枝で細かい水滴になる
=いずれも大分県別府市鉄輪のひょうたん温泉
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